太陽の恵みを生かした暮らし

はじまりは三〇年前

これまで私は、環境に対して「建築」が担う役割の重要性を唱え、地域の気候特性を読み、自然エネルギーを受動的に利用するパッシブデザインや持続可能な建築のサスティナブルデザインなどの環境デザイン手法を取り入れた、環境に配慮した数々の建築を設計してきました。同時に、さまざまな環境技術の研究、実践、普及活動を推し進めてきました。その代表的なものの一つがOMソーラーです。
今から約三〇年前、第一次オイルショックがありました。一九七三年のことです。当時、東京芸術大学の教授だった奥村昭雄先生を中心に若手の建築家の集まりがありました。その際、オイルショック直後だったこともあり、建物のエネルギーのことも考えてみようということになりました。それで、奥村先生が太陽光エネルギーの利用を提案され、色々と工夫を凝らして完成したのがOMソーラーです。地球温暖化など環境問題から、現在は、太陽光エネルギーを利用することは当たり前になっていますが、当時はまだまだそんなことを考えている人は数少なく、今となっては、非常に先見の明があったアイデアだったと言っていいと思います。
OMソーラーというのは、一口で言うならば、いわゆる空気集熱式のパッシブソーラーシステムのことです。パッシブソーラーシステムとは、同じように太陽光エネルギーを利用して発電したりするアクティブソーラーに対して、建築的な方法や工夫によって太陽エネルギーを利用する手法をいい、その基本には、「熱や光を自然のまま利用し、しかも汚れを生まない」という、まさに自然の力をできる限り活かして、快適な住まいを造ろうという考えがあります。
OMソーラーの良さは、自然に親しみ働きかける楽しさや自分で工夫する面白さ、環境への負担を減らせる点だと言えます。しかし太陽光エネルギーは、確かに無限に存在し、また温暖化も生み出さないナチュラルなエネルギーですが、残念なことに“広く薄い”エネルギーであり、夜はもちろん、曇りや雨の日もほとんど手に入れることができません。言い換えるなら“気まぐれなエネルギー”ですから、そのコントロールが非常に難しいエネルギーでもあります。 それを上手くコントロールして利用しようというのがOMソーラーの考えの根本になりました。
最近は、暑いのも寒いのも嫌だということで、室内に人工的に快適環境をつくり出す家も多くなってきました。そうでなくても冷房や暖房に多くのエネルギーを使う家が増えています。そうした住まいが石油などの資源の問題や環境に与える負荷を考えた場合、それが正しい選択だと言えるでしょうか。もちろん昔のように自然のままに暮らすことは無理ですが。
OMソーラーは、自然を閉ざす方向ではなく、自然と親しみ、自然に働きかけ、それを活かそうという考えのパッシブシステムなのです。昼と夜はもちろん、四季の変化に応答しながら、より快適な暮らしをつくり出す、まさに「太陽の光と暮らす生活」を実現します。夏は夏らしく、冬は冬らしく、自然と親しみながら、しかしガマンするのではなく、快適に暮らせる暮らしを実現するシステムだと考えてください。

アメダスの情報と
地元を知る工務店の力で実現

OMソーラーは、建物全体を仕組みと考えたシステムです。ですから、設計段階から太陽熱利用を考え設計する必要があります。
具体的なシステムの動きとしては、大きく次のようになっています。
まず冬は、軒先から新鮮な外気を入れ、それを屋根に降り注ぐ太陽の熱で温めて床下へ送ります。太陽があたり屋根面が熱くなりますと、新鮮な外気が軒先から屋根の通気層に入ってきます。この空気は太陽の熱で温められながらゆっくりと昇っていき、ガラス付き集熱面でさらに温度を上げ、棟ダクトに集められます。地域や季節の条件によって違いますが、冬の快晴の日であれば、集熱温度は六〇℃ほどになります。そして、棟ダクトに集められた熱い空気は、OMハンドリングボックスを通って床下に送られ(※1)ます。立ち下りダクトを通して送られてきた熱い空気は、床下の空気層をゆっくりと流れ、蓄熱コンクリートを温めながら、少し冷めた暖気となって室内に流れ出ます。つまり床下へ送られた空気は、基礎のコンクリートを温めながら、室内へ微風となって出て来るというわけです。そして日の落ちた夕方になりますと、熱を蓄えたコンクリートが外気温の低下とともに少しずつ放熱を始め、建物全体を床から温めるのです。このように、暖房と同時に大量の換気を同時に行うという点がOMソーラーの特長です。
一方、夏は熱い空気を利用してお湯を採ることができるとともに、余った熱は外へ排気されます。そして夜、太陽が沈んだ後、外気温の低下とともに、夜間の冷気が屋根でさらに冷やされ床下に溜め込まれます。床下のコンクリートからゆっくり蓄熱が始まります。夏は夜間貯めておいた冷気を日中まで使おうというわけです。これにより、昼と夜の室内温度差をやわらげることができます。OMハンドリングボックスは、冬は暖かい空気を床下に送って部屋を暖め、夏は夜間蓄冷と日中の熱でお湯を採るなど、年間を通じて集熱した空気のコントロールをする働きをしています。
ちなみにOMソーラーが稼働し室内に空気を送り込んでいる間は、常に新鮮な外気を室内に採り込んでいます。冬季暖房しながら、換気もしています、夏場は、夜間、少しでも低い外気を取り入れることで、エアコンの効きも、エネルギーの消費も違ってきます。このように、外気の変化を取り込むシステムですから、最も効果的に運営するためには、その建物が立っている地域の特性を理解して、季節ごと、時間ごとの稼働を変える必要があります。
OMソーラーが実現した背景には、当時、気象庁が発表を開始した「アメダス」がありました。奥村先生の素晴らしいところは、単にハード的にシステムを考案しただけでなく、同じ日本と言っても、北海道と沖縄では気象条件が大きく違うため、その地域や季節・時間に最適な形でシステムが動くように考えた点でした。その際、その地域の気象条件を知るために、当時、八四〇ぐらいあったアメダスの情報を利用したのです。そのためのシステムを、奥村先生は、まだパソコンが登場する前、電卓に毛が生えたような計算機で考え実現されました。
そしてさらに、その地域のことを一番知っているのは、地元の工務店だろうということで、その地でOMソーラーの家が建てられるように、地方の工務店を組織化して、建設のためのノウハウを教えました。当時、高断熱・高気密な住まいは、最先端の技術でしたから、OMソーラーを正しく導入するためにフランチャイズ制にして、それぞれの地域で活動する工務店を“教育”する必要がありました。工務店にとっても、自社の技術を育成するいい機会になったと思いますし、実際に、それをきっかけに技術を売り出しにした工務店が日本各地に生まれました。

特許が切れをきっかけに
一般の技術になることを期待

OMソーラーは、開発から二〇年近くがたち、特許もそろそろ切れますし、地方の工務店で十分な実力を身に付けているところも増えてきました。ひとつの画期を迎えていると言えるのかもしれません。今後は一般的なものとして、もっと普及していくのではないかと思います。
そればかりではなく、この二〇年の間に、例えば太陽光発電の飛躍的な効率向上などに代表される、自然エネルギーを利用する新しい技術も色々と確立されてきましたから、そうした技術と融合することで、さらなる新しい住まいや技術が生み出される可能性が広がるのではないかと期待もしています。
私は現在、東京都の企画を受け進行中の、東村山市内の旧都営住宅跡地の再利用プロジェクトで「木造ドミノ住宅」と名付けられた住まいの計画に携わっています。この住宅は、OMソーラーを導入しながら建設コストを坪あたり五〇万円に抑えようという試みです。ここでは、東京の山の木を使い、自然と共に暮らすことができる家を目指し、インフィルとスケルトン(※2)を、それぞれ独立して考えることで、暮らしの時間に合わせた間取りの変化も簡単にできるようにした長く暮らせる家として設計されています。ここが完成すれば、これからの新しい住まいに対する考え方が変わるのではないかと期待しています。もちろん、OMソーラーの導入に関しても、新しい道が拓けると思っています。
OMソーラーは、一部に動力を有するファンを使っていますので、一〇〇パーセントのパッシブシステムとは言えませんが、基本にあるのが“四季と暮らす”という点ですから従来の住まいで使われるエネルギー消費量に比べると格段に使用する総量が違います。そして自然エネルギーは何よりCO2の発生が無いのです。地球温暖化問題の解決に役立つ、“太陽と暮らす”生活を実現するシステムとして、これから、ますます注目を集めるのではないでしょうか。
(この記事は、CEL編集部が野沢氏にインタビューを行い記事としたものです)

(※1)自立運転型ハンドリングボックスは、ファンの動力に太陽光発電を利用している。太陽電池駆動のモデルもある。
(※2)建物を構造体と内装・設備に分けて設計する考え方のこと。スケルトンは骨格のことで、構造体を示し、インフィルは内外装・設備・間取りをさす。