AQ Group本社屋

埼玉県さいたま市

©Toshihiro Sobajima

建設地:埼玉県さいたま市
竣工:2024年3月
規模:地上8階
構造:木造(耐火構造)
延べ面積:6076.52㎡
用途:事務所、展示場

設計:野沢正光建築工房
構造設計:ホルツストラ
設備設計:ZO設計室
外構設計:背景計画研究所
施工:田中工務店・伊佐建設 特定共同企業体
掲載誌:建築技術2024年7月号、ディテール2024年秋号

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「社会に開かれた多層耐火木造を目指して」

大宮駅から西に3km,国道17号に面して建つ8階の耐火純木造ビルである。クライアントの普及型多層木造をつくりたいという想いから計画が始まった。中央を廊下,エレベータ,トイレなどを設けたコアとし,東西両サイドに10.92×27.3mの無柱空間を実現している。準防火地域であるため,規模的に耐火構造とすることが求められた。1~4階の主要構造部を2時間耐火,5~8階を1時間耐火とし,木造の柱・梁・床を強化石こうボードで耐火被覆を施している。ガラス越しに見える木部は構造体であり,「水平力のみ負担する筋かい等」を耐火被覆せず現しにしたものである。

地域のゼネコンと木材調達・プレカット加工・建方を担うサブコンがタッグを組み施工をし,外構を除く本体の工期は17か月であった。建方は,1フロア約1か月のペースで進んだ。外装工事が完了するまでは雨養生を入念に行い,耐火被覆前の木造躯体は被覆するのが惜しくなるほどきれいな状態に保たれていた。

設計が進むにつれ認識を深めることになったが,耐火木造は,①鉄骨造の柱・梁・床を木材に置き換えたもの(接合部は特注金物を使用したラーメン),②S造やRC造とのハイブリッド,③軸組工法の三つに大きく分類することができるのではないか。今回は③であり,純木造に拘っている。軸組工法で建てることを追求した結果,従来の耐火木造よりもコスト抑えることが可能になった。柱脚以外の金物は流通品である。全国にあるプレカット工場や建方を担うサブコンのネットワークをそのまま利用することができ,既存のリソースを最大限に生かすためプレーヤーが多いということは、普及を実行に移す段階で有利に働くはずだ。新しいものだけに頼ることなく,今ある技術や生産体制,製品を尊重して生かすということは,普及化にとって欠かせないと考えている。

30mを超える多層木造であっても設計・確認申請のプロセスが中規模木造と同等になるよう配慮している。耐震構造とし構造計算はルート2で行い,避難安全検証法を使わず,スプリンクラーの設置をしていない。内装制限の法令が許す範囲内で木現しを実現している。東西面に多数設けている格子耐力壁は光と煙を透過するため,自然排煙・自然採光が可能である。今回の普及型多層木造実現のブレイクスルーの一つは高倍率の格子耐力壁の開発であった。強化石こうボードや構造用合板の幅,製作可能なサッシのサイズなどから,施工性・歩留まりの向上のため尺モジュールを採用している。南北方向に並ぶ柱梁ピッチは2,730mmとし,結果としてどこか住宅にも通ずるスケール感になっており,格子耐力壁や小ラーメンとあわせて空間を特徴づける要素になった。

外皮は耐火木造に限らず多層木造ではまだ確立されていない部位の一つである。既存の鉄骨造・RC造用の外壁の認定のほとんどは木造に対応していない。木造用の認定でも2時間耐火に対応するものは限られており,躯体への固定方法を含め中高層で用いた際の性能は不確かであるというのが現状ではないか。そのため,今回はスケルトンと外皮を明快に分け,外壁に金属断熱サンドイッチパネル(30分耐火)を採用した。下地を柱梁に固定し,その下地に外壁やサッシ,配管類支持金物を固定している。断熱気密が一つのパーツで確保でき,スリーブの開孔処理も通常の対処で対応可能である。何よりカーテンウォール形式なので,耐力壁を兼ねる外壁を1時間耐火ないし2時間耐火にする必要がない。木造の躯体が鉄骨造的な外皮をまとっているという状態である。

設備に関しては,いつも以上に設計初期から配慮して計画をしている。躯体が木造だと現場で何とかならないからである。径が大きい換気ダクト,耐力壁とバッティングする配線・配管については,ルートを含めて構造計画に合わせて検討している。空調換気のダクトを梁貫通できないため,特に東西のオフィス空間はダクトレスになるよう計画をしている。竣工してしまえばあまり表に出てこない存在であるが,構造を検討するときは常に設備のことを考えていたという意味では,設備計画あってこその構造計画といっても言い過ぎではないだろう。

耐火構造部材には日本木造住宅産業協会の大臣認定と告示仕様を用いており,誰でも使うことができる仕様にしている(2時間耐火部分は現在90分耐火の告示仕様で設計可能)。明快なプランは屋内階段と屋外階段への避難経路をわかりやすくし,上階延焼を妨げるよう各階スラブで面積区画を形成し,サッシのガラスは隔階で耐熱強化ガラスを独自に採用している。現しとしている構造材に関しては,2時間ないし1時間以内に燃え尽きる断面サイズにし,耐火被覆内部の木材への延焼を防ぐよう配慮をした。

コストを抑えるためにさまざまなものをそぎ落とした結果,構造と設備が統合された状態がそのまま空間として現れた。それを可能にしているのは日本が誇る木材加工・建方の技術であり,軸組工法であることも含め,日本だからこそできる多層純木造建築になったのではないか。木現しになっている空間に身を置くと,建物を支えている構造材にじかに触れることができる。近代以降,大量につくられてきた均質な空間にはない,木という素材の持つ生々しさや荒々しさを感じることができる。

基本設計時の野沢のスケッチブックを改めて見返すと,日ごとに変わっていく架構のアイデアスケッチの中に竣工の姿に近い矩計図があった。合理的な軸組工法の架構,構造と設備が統合された姿,耐候性やメンテナンス性に配慮した外皮の在り方は,日本で受け継がれてきた軸組工法の延長線上にある普遍的な木造の建方として設計当初からイメージにあったのかもしれない。これまで多くの方々が想像し試みてきた木造多層建築は,法や生産体制がようやく整い,ここにきて十分に現実的な手段として選択肢にあがる段階に至ったといえるのではないだろうか。