葉山の住宅
神奈川県三浦郡
建設地:神奈川県三浦郡葉山町
竣工:2025年5月
構造:木造 一部RC造(擁壁)
階数:平屋
敷地面積:366.75 ㎡
建築面積:79.92㎡
延床面積:103.62㎡
用途:専用住宅
設計:野沢正光建築工房
設計協力:利光収建築設計
構造:樅建築事務所
施工:葉山工務店
野沢がスケッチを残し、プロジェクトを進めた住宅である。敷地は神奈川県葉山町、南斜面の高台に位置する低層住宅地にあり、南側の道路からは1.5mほど高い土地、既存の地下駐車場だけが残された更地であった。敷地に立つと南側はレベル差によって道路からのプライバシーが保たれつつ南東方向へ遠く視線が抜け、南側の道路以外は地区住民の共有地である緑地/山を背負い、緑豊かな景観と環境を享受することが出来る、住宅を計画するには大変恵まれた敷地であった。
しかしながら敷地の大部分が平成27年に当地区に設定された「土砂災害特別警戒区域」によるレッドゾーンの区域内にあり、その区域に建築物を計画する場合は、3m高さの斜面の崩壊土砂に耐える建築物として設計し、かつ居室の開口を斜面側に設けることが出来ないという厳しい建築条件のもと、閉じることと開くことの課題と向き合う必要があった。庭を介して自然と共に在るおおらかな住宅を目指し、敷地全体をどのように活用していくか検討を重ねた。
建主はリタイア後の生活拠点を当地に求めたご夫婦で、車いすの利用や在宅医療への対応など、将来の身体的な変化にも可能な限り寄り添えるような住宅を求めた。道路から1.5mのレベル差を解消する斜路脇の土留めと、レッドゾーン内の建物の外皮を3mの擁壁としてRCで計画し、敷地全体に平屋で展開する木造住宅を計画した。敷地形状に合わせて並ぶ南北2棟の木造架構を中間で接続する形態とした結果、雁行しながら連続し、どこから見ても全貌がつかみにくい全体像となった。擁壁で囲まれた北棟をプライベートな空間、大きく開いた南棟をパブリックな空間とし、それらを中央棟のキッチンにて繋ぐ明快な構成とした。
植栽を含めた建物周囲の庭は建主との協働により計画され、建主自らが住みながらつくりあげることを希望された。敷地西側には玄関前のアプローチとリビングへの直接のアクセス(ストレッチャーや車いす利用)を可能とする広く大きなデッキスペースを設けたが、そのデッキスペースやリビングへの西日の直射を避けるパーゴラ屋根の計画が建主により目論まれている。本建物と隣家とに囲まれる東側の庭は室内から眺める庭として、また飼い犬のドッグランとして計画した。今後、建物北側、山との境界付近は深い緑陰と地中を流れる山側からの水脈による湿潤な環境を活かした植栽が施される予定である。また元々の道路側の擁壁の上部に敷設されていた大谷石は崩壊の恐れがあったため解体したが、その大谷石を踏み石として敷地の各所に散りばめ、場所の記憶を残す計画とした。
開けた南側への視線だけではなく、各方向に性格付けされた庭や景色に向かって色々な高さに開口部を設け、RCの強固な擁壁に守られながらも閉塞感を感じないような、周辺環境と緩やかにつながった住まいの実現を目指した。
緑陰により太陽熱の直射から守られ、また背後の山へ抜ける涼風を充分に採り入れることが可能な敷地において、豊かな自然環境と共にある住宅を目指し、可能な限り空調機に頼ることの無い生活が出来るよう、間仕切り壁を少なくし、自然換気・通風に効果的な開口部を各所に配置し、外皮は断熱性能を高めた。省エネルギー設備として、今回はPVの設置及び電気とガスのハイブリッド給湯システムを採用した。将来的にはV2Hを加えて災害時対応としてEVを蓄電池として機能させる計画とし、如何なる状況下においても終の住処として長く住み続けられるよう計画した。
(K.I/O.T)





























