小田原市立新玉小学校内装木質化改修
神奈川県小田原市
建設地:神奈川県小田原市
竣工:2021年9月
規模:地上3階
構造:RC造(内装木質化改修)
用途:小学校
設計:野沢正光建築工房
家具デザイン:Koizumi Studio
まなびパネルイラスト:園内せな
施工:加藤建設、大島工務店
小田原産のスギとヒノキを使い地元の工務店が施工した小学校の内装木質化改修である。2020年12月に行われたプロポーザルで選定され、設計・工事監修に携わることとなった。小田原市では今後も市内の小学校の木質化を進める方針で、新玉小学校が4校目であった。小学校木質化の仕組みを作り上げた行政の工夫や努力により、市内で純度の高い地産地消が行われている。
新玉小は創立107年の歴史がある小学校であり、建設当時の手仕事が感じられる校舎は築50年以上でRC造3階建てである。各学年1クラスのため、クラス数が多い他の小学校に比べると一つ一つの教室に手をかけて改修しやすい状況であった。使用頻度の少ない余剰の教室もあり、限られた予算をどこに使うかは設計者のアイデアが求められるところとなった。小学校や小田原市及び地域の方々と協議を重ねて2021年3月末に設計がまとまった。
木質化を肌で感じてもらうために、児童が日常的に手に触れる箇所に木を積極的に使うように心掛けた。子供の身長や目線から見て効果的に感じられる場所を見極め、滞在時間の長い教室ではランドセル棚や掃除用具入れの製作と床から天井までを板張りとして木質化し、廊下では2mの高さまでベンチ、荷物掛け、建具、掲示板を設置している。加えて、使用頻度が少なかった教室も積極的に木質化し、多目的に利用できる教室を各階に設けることができた。結果的に、全て覆い隠さない、新しいものに置き換えないことで既存の校舎の面影が残り、学校の記憶を引き継ぎながら木のぬくもりが感じられる校舎に更新されることとなった。小田原の山で育ったスギやヒノキが年代の違う様々な仕上げに馴染む、あるいは調和させるはたらきをし、竣工して改めて木という素材の持つ懐の深さ、寛容さを実感した。
学校や市をはじめとする関係者の意向やICTをはじめとする新しい利用への対応があり、一方でこれまで受け継がれてきた既存校舎らしさ大切にしたい。その上で支給される材の樹種やサイズや状態、歩留まりが考慮された設計とする。新築のようにそれまで無かったものを新しくつくる行為とは異なる、様々な与条件を丁寧に紡いでいき共存させていくような創意工夫が求められた。支給材のスギ、ヒノキだけでつくり、二次製材によるロスを抑えられるよう支給材のサイズを活かした使い方を心掛けたことで、木が厚く太く使われた木の存在感が強い特徴的な空間となった。
これまでの木質化改修に引き続き、節のない柾目の材から虫害のある材まで様々なグレードの材が混在して用いられている。図面やCGではわからない、竣工して目にしてわかる木の表情の豊かさ、多様さがある。逆に言えば、普段は流通する材を使うことで、どれだけ選ばれた箇所、揃えられた等級の材を使っていたかということである。パソコンの画面上に写るツルツルとしたテクスチャやシートにプリントされた木目模様にはない力強さに触れることは、小学生のような年代にこそ大切であり、木質化された新玉小で学んだ児童の空間に対するまなざしに少なからず影響を及ぼすのではないだろうか。
竣工後の児童がいる新玉小を訪れると、これまでの校舎では児童の居場所といえば教室の机と椅子くらいしかなかったことに改めて気づく。各所にあるベンチやスツール、西昇降口に置かれた大きな机や小上がり等、木質化によって多様な居場所を増やすことができた。9月の新学期初日に様子を見に行くと、夏休み前までは木の設えが無かったことをまるで感じさせないような様子で、新学期の大きな荷物が下の荷物掛けにいっぱいに掛けられ、休み時間には教室前のベンチに自然に座る姿が印象的であった。
人口が減り、小学校の統廃合が進み築年数が長い建物が増えてゆく今の社会状況は必ずしも悲観的なものではなく、これまでの小学校にはない豊かさを獲得していく好機ととらえることもできる。スケルトン・インフィルという建築構法的な視点を通して見れば、RC造で作られた標準化された校舎のインフィルが、新しい時代の要請に応えるため木という素材で改修される、さらにそれが地域の材と地域の大工の手によるものであることで、5,60年経ってようやく学校建築において新たなフェーズに入ったと考えることもできるかもしれない。特に家具や手すりの面取りのアールを気に掛けたり、ベンチの座面の高さに配慮したりするような細部への丁寧なまなざしは、デジタルツールを使いこなす昨今であっても、限られた期間で設計をする新築工事ではなかなか持てないものだ。時間をかけて建物を使っていくこと、様々な形に加工できる木を使うこと、一番の使い手である児童のことを丁寧に考えることは、今後の小学校建築を考える際に大変重要なことなのではないだろうか。
(Y.I)