愛農学園農業高等学校本館再生工事

三重県伊賀市

建設地:三重県伊賀市
竣工:2010年10月
規模:地上2階
構造:鉄筋コンクリート造
建築面積:534.8㎡
延床面積:985.5㎡
施工:小原建設株式会社 名古屋支店
設計:野沢正光建築工房
構造設計:山辺構造設計事務所
用途:学校

掲載紙:『日経アーキテクチュア』2010年12月13日号(日経BP社) 『チルチンびと』別冊35(風土社)『新建築』2011年4月1日号(新建築社)『建築士』2012年3月号(建築士会連合会)『建築ジャーナル』2012年3月号(建築ジャーナル)
受賞歴:2014年度耐震改修優秀建築賞

「減築・耐震化・太陽熱集熱システムの導入」
近鉄大阪線で紀伊半島を横断し、ほぼその中央部の自然の中に学校はある。全寮制、有機農業を学ぶ学校だ。2008年プロポーザルが行われ、当初の依頼は木造校舎の設計であった。訪れたそこにはRC造3階建て延べ1500㎡ほどの校舎があった。築46年、スチールサッシは腐食し開閉もままならない。耐震的に危険と判明し、解体して木造校舎に建替が検討されたという。当時、寄付を集め建設された校舎はここでの様々な体験の記憶を持つ卒業生のものでもあり、また解体は大量の廃棄物を生み、CO2発生を伴うことともなる。
構造家山辺豊彦氏との応答の末、上階一層分を「減築」し耐震改修し、躯体を存置させ改修により快適で今日的性能を持つ校舎とすることを提案、了承していただくこととなった。
耐震化は3階の切除の外には、1階に3枚の耐力壁の設置、構造スリットによる腰壁と柱の分離、これだけである。躯体には外断熱化し、屋根を新設、夏の直射を阻む庇を設けるなど負荷を軽減する手だてを打つ。屋根には太陽電池で駆動する太陽熱集熱換気システム(OMソーラーシステム)を搭載、暖かい新鮮空気を教室内に導く。3期に区画を分け、夏休みに3階を切除し、区画ごとに教室を移し、プレハブを建てずに「居ながら」改修した。

躯体は夏季、屋上部の直射を受け、冬季は蓄冷される「裸の躯体」その結果としての過酷な「室内気候」を創造し、改めて驚く。今日に至るもこうした学び舎は多く存在するのではないか。耐震性と快適性をともに改修する今回のプロジェクトは既存躯体を使い、コストを縮減する中で可能となった。晴天時、室内はエネルギーゼロで快適な室温と空気質を維持している。
各地を歩くと人口の減少を実感する。余剰の教室を抱える学校、合併により過大となった役場などだ。それらは今後とも光熱水費を消費し続けるはずである。こうした施設を新たな用途に適正な規模に整え直して快適なものとすることは急務であろう。そしてその手法はある、今回のプロジェクトを通じそう考える。
学校は50周年を期し既存の施設の改修とともに、縮減した木造校舎を建設する予定もある。そのプロセスの中でキャンパスが生き生きとしたものとして再生されることを期待したい。今回はその一歩である。(M.N)