大宮駅前ビル
埼玉県さいたま市
建設地:埼玉県さいたま市
竣工:2024年10月
構造:RC造
階数:地下1階地上8階
敷地面積:619.54㎡(187.4坪)
建築面積:352.94m2(106.8坪)
延床面積:2498.11m2(755.7坪)
用途:事務所
設計:野沢正光建築工房
構造:樅建築事務所
設備:設備計画
施工:石川建設
大宮駅至近、東西に人通りの多い2面の通りに接する敷地に建つ、事務所ビルの計画である。周辺にはビジネスホテルや専門学校、集合住宅などに加えて、様々な業種が入居するテナントビルが建ち並ぶ。ガラス張りのテナントビルは、入居するテナントが各々思い思いの広告や看板を外観へと表出し、テナントが入れ替わる度に変わる期間限定の表情=ファサードにより、町の風景をつくり上げている。
本計画では、入居者によって変化するインスタントな表情や、建材メーカーのデザインした建材の模様によるものではなく、街の中で永く変わらない表情を目指した。建物西面の大きなファサードについて、西日による直射熱の影響を考慮し開口部を外壁ラインから内側に下げ、掘りの深い表情とした。外壁に採用している板金や外断熱の上の塗り壁による仕上げは、目地が少なくメンテナンスや更新頻度の削減にも寄与すると同時に、外観の長寿命性に繋がる。
構造の計画においても柱や梁、耐力壁といった構造体を外周部とコア部に集約し、床には小梁を要しないボイドスラブを採用することで、間取りや設備の改変や更新に柔軟な対応が可能な計画とした。外壁は耐力壁と非耐力壁を明確に区分し、さらに鉛直のみを支える細いPC丸柱はこれらと分離して配し、空間の開放性と構造計画の明解性を両立した。
コンクリートの壁や柱は室内を打ち放し仕上げとし、室外側は板金裏となる梁も含め外断熱によりしっかりと被覆し、蓄熱による室内温度の変動が少なくなるよう計画することで、空調設備機器の計画を最小限とし、省エネルギー性能の向上を図った。
建物周辺は元々は小さな住宅も点在し路地が行き交う地域であったが、駅前の区画整理事業による道路の拡幅と区画の成形が行われ、見通しがよく車の交通が便利になり、消火活動や災害時の避難に適した街へと変わった一方で、敷地いっぱいに収益重視の商業ビルが高く建ち並び、かつてあった「人々が自由にたたずんだり休んだりすることのできる空間」=「街の余白」が少ない風景へと変わってしまった。
商業地域としての経済性を極端に重視することにより、「公」や「共」の意識が著しく低くなり、「私」のみで建物が出来上がってゆく。そういうことが繰り返されると、どの街もどの駅周辺も似たような風景に変わっていってしまう。経済性を重視しつつも「公」や「共」の意識はもち続けるべきではないか。
今回の計画ではささやかではあるが建物と道路との間に緑の空地を設けた。ここが「街の余白」となり、成長する樹木と共に建物が、永く街の風景の成熟に繋がっていくことを望む。(Y.Y)